スタグフレーション不可避の情勢。限られた経営資源はどこに投入すべきか

本日の語り手

代表取締役CEO 藤原 誠一郎 
金融商品のマーケティング、ベンチャーキャピタル設立を経て、1999年イーライフを設立。
趣味はマリンスポーツ・スノースポーツ。愛犬家。

こんにちは、イーライフ代表取締役CEOの藤原です。

今回は、昨今の世界情勢や厳しさを増す景気動向を踏まえて、企業が今後どのような広告・マーケティング戦略をとればいいのかについて、自分なりの考えを述べたいと思います。

2年前から続くコロナ禍や、ロシア・ウクライナ戦争の影響などにより、不況にもかかわらず、世の中のモノやサービスの価格が継続して上昇する「スタグフレーション」は不可避の情勢と言われています。

これは日本企業、特に弊社のクライアント企業の多くにとって、最悪の状況と言っていいでしょう。多くの企業は、ざっくりと言えば、原材料を海外から輸入し、加工して販売するビジネスを行っています。原材料が高騰する一方で、消費者の財布の紐が固くなる状況は、普通に考えて歓迎できるものではありません。

ウクライナ戦争の停戦や、ロックダウンの全面解除により中国からのインバウンドが急増するなどすれば話は別ですが、しばらくは難しいように見えます。

厳しい状況に立たされた多くの企業は、おそらくは広告・マーケティング費を削減する方向に舵を切るでしょう。しかし、それは本当に正解と言えるのだろうかというのが、今回考えてみたい論点になります。

不況下こそ、あえて広告を打つべきと言える理由

歴史を振り返って、直近のもっとも似た状況として思い浮かぶのは、1970年代のオイルショックです。

この時も今回同様、広告費を削減する企業が続出しました。しかし、そんな中でもあえて広告を打った企業、たとえばトヨタがその後大きく伸びた(注1)のは、周知の通りです。
(注1)関連リンク: 不確実時代を乗り越える「海外マーケ戦略、5つのポイント」 ~大不況を乗り越えた世界の企業事例~ インフォキュービック・ジャパン社

これは理屈で考えれば、当然のことのように思えます。ほかが皆渋るということは、あえて打って出ることで差別化する、大きなチャンスでもあるからです。
(そうは言っても、ほとんどの企業には余裕がないわけですから、「強いところがより強くなっただけ」ということかもしれませんが)

さて、現在の状況を前にした各企業の事業戦略を見てみると、大きく二つの方向性に分かれているように映ります。

一つは、原材料の価格や海上運送の費用高騰で厳しい状況に置かれつつも、努力に努力を重ねて、価格を据え置くという方向性です。
しかし、この戦略は厳しいと言わざるを得ません。たとえばこの調査(注2)によれば、いまや「カップラーメンでさえ高くて買わない」若者が増えているといいます。「価格を上げない」努力をいくら重ねても、ジリ貧状態というのは否めません。
(注2)関連リンク:~値上げの春 消費者はどう対応?~ 2022年の値上げに関する意識・行動調査 日本インフォメーション社

そこで取り得るもう一つの方向性が、付加価値の高い商品を作ることで「価格を上げる」努力をするというものです。

わかりやすい成功例として挙げられるのが、生活家電を手がけるツインバード工業です。同社は新ブランド戦略により、厳しさを増す事業環境にも関わらず、22年2月期の売上高は約129億円で、売上高総利益率は前年に比べて1.6ポイント上昇。他社の2倍近い価格のコーヒーメーカーやスチームオーブンレンジが順調に売り上げを伸ばし、収益向上に貢献している(注3)といいます。
(注3)関連リンク:「上げない努力」より「上げる工夫」 納得生む「価格術」 5社の手法はこれだ 日経ビジネス社

付加価値を上げることで価格を上げる。この戦略を貫く上でもっとも難しいのは、やはり「付加価値を理解してもらうこと」でしょう。「他社の類似商品と比べて、これだけ安い!」は、誰でも理解ができる。それと比べると、付加価値の理解を広めることの難易度は圧倒的に上がります。

その高い壁を乗り越えて、その商品、そのブランドならではの付加価値を理解してもらう役割を果たすのが、広告だと思います。私が「厳しい事業環境に置かれているからこそ、広告費を削減するのではなく、あえて打って出ることに意味がある」というのは、そういうわけです。

最大の難所は、付加価値を理解してもらうこと

ここからは少し我田引水のような話になってしまうのですが、中でも、弊社が提唱する「CSA」の仕組みは、こうした状況や目的との親和性が高いように思います。

マスマーケティングで用いられるような短く簡潔なメッセージで、世の中にこれまで存在しなかった付加価値を端的に説明し切ることは難しい。とはいえ、一般消費者にいきなり複雑な説明をしても、理解してもらえないし、そもそも耳を傾けることさえしてくれない--。そんなジレンマを解決しうるのが、CSAの仕組みです。

CSAについては、このブログでも過去に何度か説明してきましたが、感度の高いクリエーター(C)をうまく味方につけることができれば、企業に代わって、商品の付加価値をわかりやすく表現するコンテンツを自発的に作ってくれます。

クリエーターは、付加価値への深い理解と、クリエイティブな発想や表現力に加えて、一般消費者としての目線も併せ持っています。その分だけ、オーディエンスにとってもわかりやすく、興味を引くようなコンテンツを作ってくれる可能性が高いのです。

そして、サポーター(S)やオーディエンス(A)からのフィードバックにより、クリエーターのさらなる創作意欲を刺激するというループが機能し始めれば、企業は大きなお金をかけることなく、半自動的に仕組みを継続することができます。

こうした経済的な面からも、来たる不況の時代に、CSAがもたらすメリットは大きいように思います。

たとえば、弊社が過去に手がけた事例に、日立のロボットクリーナー『ミニマル RV-EX20』の「buzzプロジェクト」があります。

このプロジェクトではまず、弊社が運営するプラットフォーム「buzzLife」のモニター会員5人に実際に商品を使ってもらい、その感想をもとにWebコンテンツを制作しました。

サポーターが介在していないという点で、厳密に言えば、CSAを用いた例とは言えないですが、それぞれライフステージの異なる消費者の声を商品紹介の一環として活用(注4)することで、企業の独りよがりではないコンテンツを作ることを作成。購入検討者の付加価値理解につなげることができています。
(注4):関連リンク:ロボットクリーナー RV-EX20 日立の家電品|クリーナー

さらにもうひとつ、森永製菓のCSAコミュニティ「エンゼルPLUS」の事例も紹介させてください。

自分なりの「レアダース」の楽しみ方をC(クリエイター)が投稿をし、S(サポーター)がいいね!やコメントなどのリアクションをすることによって賑わいが起こり、A(オーディエンス)が閲覧して楽しんでいる

「エンゼルPLUS」の中には、ユーザー(クリエーター)が森永製菓商品の写真を投稿し、その投稿に対してサポーターが自由にコメントできる「ギャラリー」というコンテンツがあります。この「ギャラリー」内のいち投稿が起点となって先日、同社の看板商品のひとつである『DARS』に関して、ちょっとしたムーブメントが起きました。

『DARS』のチョコレートには通常、一粒一粒に「DARS」と刻印されているのですが、稀に、通常とは異なる刻印がなされていることがあり、熱心なユーザーの間では「レアダース」と呼ばれています。

この「レアダース」の写真が「ギャラリー」に投稿されたことで、サポーターからは多くのコメントが投稿され、コミュニティは大いに盛り上がりました。そこから、「レアダース」の話題はコミュニティ外にも波及。結果として、サイトへの外部流入を増やすことに成功したのです。

「レアダース」の存在は、同社が公式にアナウンスしているわけではありません。むしろ公式にアナウンスしていないからこそ、そこに探り当てる楽しみや喜びが生まれ、コミュニティは盛り上がった。そしてその先に、より大きなムーブメントを生み出すことができたのだと思います。

こうしたCSAの仕組みをうまく活用することで、商品のもつ付加価値を消費者に伝えることは、スタグフレーション下の企業戦略として、とても有効ではないかと思うのです。

「CSAからの自社EC」という投資

東映アニメーションのデジモンファンのコミュニティ「デジモンパートナーズ」ではコミュニティ内にECを併設しており、既存のグッズ販売だけでなく、会員のアイデアを集約・実現して販売するプロジェクトが進行している

先ほどから触れている「付加価値を理解してもらうこと」のハードルは、消費者に対してだけでなく、流通との間にも存在します。流通業者の理解を得られなければ、各メーカーは、自社商品を置いてもらう売り場を確保することができません。

その意味では、流通業者の理解を得るための努力は当然続けるとしても、自社ECを持ち、直接消費者に向けて販売することの重要性は増していると言えるかもしれません。CSAには、主としてWeb上で展開されるので、そこから自社ECへという誘導に無理が生じにくいというメリットもあります。

厳しい状況下、限りある経営資源をどこに投資するかが問われていますが、「CSAからの自社EC」という投資は、この時代の戦い方としてありなのでは?というのが、私の考えであり、皆さんへの提案です。

 

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