企業はクリエーターの善意のコミュニティ活動に金銭で報いるべきか。来たるべきギグエコノミーの時代に向けて

これまでイーライフの考える「CSA」(Creator、Supporter、Audienceの3者の頭文字をつなげた造語)について基本的な考え方やケーススタディについてご紹介してきました。今回は、弊社代表取締役CEOの藤原 誠一郎がこれからの「CSA」についてお話します。

このマーケティングコラムでは、これまで2回にわたって、私たちイーライフが大切にしている概念・CSAについて説明してきました。
詳しくは過去記事を読んでいただきたいのですが、このCSAにおいて、クリエーターを創作活動へと突き動かす動力は、基本的には精神的な価値にあります。クリエーターは、自分の好きなブランドに貢献したり、その中で自分を自由に表現したり、表現したものをサポーターから認められたりすることで、精神的な充足を得ます。そのことが、クリエーターを一層の創作活動へと突き動かすことになりますし、企業は企業で、ブランドのコミュニティ拡大というメリットを手にすることができる。これが、CSAの基本的なコンセプトでした。

今回は、そこからさらに一歩進んだ話です。企業がクリエーターをモチベートするための材料として、従来からの精神的な価値に加えて、経済的な価値を提供する。要するに、お金やポイントなどで報いることがあってもいいのではないか、という提案がしたいのです。

「小さく稼げる場所」がもっとあっていい

今日、金銭的な報酬でクリエーターの創作意欲を刺激する仕組み自体は、特段珍しいものではありません。たとえば、YouTube、Instagram、noteなど。こうしたプラットフォーム上に持てる知識や創作物を披露することで、クリエーターは金銭的な報酬を得ることができます。主にインターネットを活用することにより、企業に雇用されることなく、プロジェクト単位で単発の仕事を請け負う働き方、およびそれによって成り立つ経済を「ギグエコノミー」と呼びますが、広い意味でこのギグエコノミーを支えるプラットフォームは、すでに世の中にたくさん存在しています。

私の主張は、仮にそうした働き方や経済が世の中に浸透してきているのだとするならば、YouTubeのような第三者的なプラットフォームだけでなく、各企業がいままで以上に積極的に、そのための場を提供すべきなのではないか、ということです。

ものすごく質の高いコンテンツを持った人は、これまで通りにYouTubeやnoteといった既存のプラットフォームで作品を発表し、報酬を得れば良いと思います。しかし、そうしたプラットフォームで作品を披露し、報酬を得ることのハードルはやはり高く、現状は、誰にでもできることではないですよね。一方で、そうしたプラットフォームで作品として披露するまでのクオリティは出せないものの、ある分野においては、ほかの人から見て非常に魅力的なコンテンツを持った人というのが、かなりの数いるはずです。

そうした人たちが作品を発表し、その情報を求めている人たちとつながり、第三者的なプラットフォームでトッププレーヤーが手にする水準とは言わないまでも、いくばくかの報酬を得ることができる場を設けることには、それなりの社会的意義があると言えるのではないでしょうか。そして、そうした場を企業が提供することは、最終的には、それを運営する企業にとってのプラスにもなります。端的に言えば、自社で運営するプラットフォームでクリエーターに支払う報酬は、第三者的なプラットフォームに支払う広告料と比べて、圧倒的に安く済みます。にも関わらず、場合によっては、より大きな広告効果が期待できるかもしれないわけです。
であれば、企業がそのことによって得た経済的な利益の一部を報酬としてクリエーターに還元することは、やはり理にかなったことではないか、と思うのです。

「無印良品の家」に見るwin-win-winの関係

具体例を紹介しましょう。弊社が関わっている事例の一つに、良品計画さんとの取り組みがあります。

豊富な商品ラインナップを揃える良品計画さんが、「無印良品の家」という名前で、戸建て住宅を販売しているのをご存知でしょうか。多くのハウスメーカー同様、彼らもモデルハウスを持っていて、そこには当然のことながら、本職の営業マンがいます。しかし、営業マンのセールストークは、あくまでセールストークとして受け止められてしまいがちです。モデルハウスを見たり、営業マンの説明を受けたりするだけでは、住宅購入を検討されている方がその魅力を完全に理解し、自分ごととしてイメージを膨らませることが難しい場合もあるかもしれません。
無印良品はこの課題に対して、実際に人が住んでいるオーナー宅の見学会という企画を実施していましたが、検討者にもっと理解を深めてもらう、自分ごと化してもらいたいという課題感を持っていました。そして、そこに新型コロナウイルス感染症の蔓延という問題も重なり、見学会そのものができない状態になりました。

そこで、我々が提案したのが、オーナー自らに自宅からLIVE配信をしてもらうという、オーナー主催のオンライン見学会の企画です。誰よりも「無印良品の家」の価値を理解して伝えられるのは、実際に住宅を購入し、そこに住んでいるオーナー自身。彼らを通すことにより、価値や魅力は当然のこと、ちょっとした不満点さえもポジティブに伝えることができるのではと考えたのです。オーナーには友人を自らの自宅に招くようにして内覧会を開いてもらい、家の間取りや日々の暮らし方、設計時に悩んだことなどを話してもらいました。また、LIVEではリアルタイムで質問を受け付け、多くの検討者の質問にオーナー自ら答えてもらうことで、双方向のコミュケーションが実現しました。

今回のこの企画により、購入検討者は、より自分ごと化しやすいリアルな意見を得ることができました。一方で見学会に協力してくれたオーナーも、無印良品ブランドや購入検討者の役に立ったという精神的な充足に加えて、報酬という経済的価値を手にしています。さらに無印良品としても、オーナーを自社のセールスパートナーとして活用するという新たな営業手段を得た。まさにwin-win-winの関係を築くことができたと考えています。

こうした取り組みは、さまざまな業態に応用できるかもしれません。たとえば、コロナ禍もありリアルな集客に苦しむ百貨店が、いくつかのニッチな商品領域に関して「これについては誰にも負けない」「ひとこと言いたい」というマニアを募り、ウェブ上に情報発信や意見交換をする場を設ける、というのはどうでしょうか。

投稿したコンテンツのページビューなどに応じて、投稿者に金銭的な報酬(あるいはそれに準じるポイント)を支払うようにすれば、YouTubeやnoteとはまた違った、一定の統一した方向性を保ちつつも、ユニークなコンテンツが集まる場所を作り出すことができるかもしれません。

モノやサービスに加えて「場」の提供が価値に

さて、先ほどご紹介した「無印良品の家」の例における、本職の営業マンと家のオーナーの関係のように、プロとアマチュアの差がなくなってきている、あるいはプロとアマチュアという線引き自体に意味がなくなってきているというのは、最近の世の中の大きな流れのようにも思えます。

たとえば、今日のクラウドファンディングには、大手メーカーが作る製品以上に魅力的な製品が数多く並んでいます。それもそのはず。世界中の”アマチュア”が束になって、しかも何の制約もなく自由に発想したものに、いくらプロとは言え、企業の中の限られた人員が、実現可能性という制約に縛られて発想したものが勝てるわけがありません。もちろん、どれだけ優れたアイデアも、それを形にするための資金や、製造や量産、流通の仕組みがなければ「絵に描いた餅」です。けれども今日では、そうした必要な機能は、すべてプラットフォーム側があらかじめ備えるようになってきています。その点でも、”プロ”たる企業は、分の悪い戦いを強いられているのです。

企業としては、現状は第三者的なプラットフォームに集まるそうした優れたアイデアが、自社に集まるための仕組みとして、コ・クリエーションやオープン・イノベーションの場を作る必要性に迫られていると言えるでしょう(その際には、日本企業がこれまで長い歴史の中で磨いてきた製造や量産、流通の仕組みは、強みとして生きるはずだと考えています)。

これは、別の言い方をするなら、従来のようにモノやサービスを作って売ること以外に、そうした時代の要請に合った「場」を提供することも、企業が世の中に提供する価値の一つとして数えるべき状況になってきているということではないでしょうか。こうした文脈からも、企業がギグエコノミーに寄与する新たなプラットフォームを提供することには、大きな意義があるように思います。

既存の第三者的なプラットフォームが支える現状のギグエコノミーが、一部の優れたクリエーターにしか開かれていないものだとするならば、その門戸を広げる役を企業が買って出ることが、もっとあってもいいのではないかと思うのです。

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