マーケティングに銀の弾丸はない。アプローチすべきはファンか、パートナーか

 

本日の語り手

代表取締役CEO 藤原 誠一郎 
金融商品のマーケティング、ベンチャーキャピタル設立を経て、1999年イーライフを設立。
趣味はマリンスポーツ・スノースポーツ。愛犬家。

こんにちは、イーライフ代表取締役CEOの藤原です。

以前、弊社CMOの杉山麻喜が「消費者は企業にとってパートナーである – イーライフの基本概念:PRMとは?」というコラムを書きました。

このコラムを読んでくださった方から私もいくつかの反応をいただいたのですが、その中に「要するに、最近流行りのファンマーケティングのことなんでしょ?」とおっしゃる方がいました。コラムの中で杉山も触れていますが、私はファンとパートナー、ファンマーケティングとPRMは、似て非なるものだと思っています。そして、その違いをしっかりと認識し、正しく使い分けることが、企業のマーケティング活動においてとても重要なことだと思うのです。

そこで今回の記事では、両者の違いについて改めて論じてみることにしました。その上で、私がなぜファンではなく、パートナーという呼び方にこだわっているのかを改めてみなさんにお伝えできればと思います。

ファンとの濃密な関係を築く世界的ブランド

「ファン」という言葉を聞いてすぐに思い浮かぶのは、特定のタレントやアイドル、スポーツチームなどを応援する人たちのことではないでしょうか。熱狂的な彼らは、応援する対象のすべてを受け入れます。たとえば、対象がスポーツチームであれば、勝っても負けてもそのチームを応援し続ける、というように。それが、私がイメージする「ファン」と呼ばれる人たちです。「なぜそんなに応援するの?」と聞かれても、きっと彼らは答えられないだろうと思います。なぜなら、彼らの対象を応援する行動に「好きだから」以上の理由はないから。そう、愛に理由はないのです。

さて、そんな理由なき熱狂、愛情で結ばれた関係を、企業やブランドのマーケティング活動に応用しようというのが、最近流行りの「ファンマーケティング」です。

ファンマーケティングの成功例として世界的に有名なのが、アップルです。アップルには「動向を常にチェックしていて、新しいiPhoneが出たら、他社製品と比較検討することなどなしに、必ず発売日に購入する」といった熱狂的ファンが、たしかに存在します。ほかにも、スポーツブランドのナイキ、あるいは日本発のブランドでも、プレイステーションや任天堂は、世界中にファンを持っています。弊社のパートナー企業で、以前のコラムで取り上げた無印良品も、理由なき熱狂、愛情により、ファンとの濃密な関係を結んだブランドの好例と言えるでしょう。

ファンがファンを呼んでくる、は勘違い?

こうした成功例を見ても、良質なファンマーケティングが持つ”破壊力”は疑いようのないものだと思います。各企業がこぞって飛びつくのも頷ける話です。しかし同時に、巷で言われるファンマーケティングには、ある勘違いが潜んでいるようにも思えるのです。繰り返しになりますが、ファンのファン行動に理由はありません。ファンがある商品を買うのは、その商品なりブランドなりのことが「(説明できるような理由は特にないが)とにかく好き」だから、です。そういう人は、極論すれば、放っておいても繰り返し、そのブランドの商品を買ってくれるでしょう。けれども、ほかの人にまで積極的に勧めようとするかと言えば、話は別です。

たとえば、あるスポーツチームのことが熱狂的に好きな人が、そのスポーツに特に関心のない知り合いにまで、応援するよう勧めることはないでしょう。「愛に理由はない」わけですから、勧めようにも、説得力を持って勧めるすべがありません。ということは、巷で「ファンマーケティング」と言われているものの中身は、結局のところ、自社製品をたくさん買ってくれる人に、よりたくさん買ってくれるようアプローチしているだけ、とも言えるのではないでしょうか。

これまで「ロイヤルカスタマー」「CRM」などと呼ばれていたものと、ほとんど変わらないのではないか、ということです。

口コミなどにより、買ってくれる人の輪が広がっていくことを期待しているのならば、こうした「ファン」へのアプローチは、目的に合致していないのではないか、というのが私の主張です。

パートナーの行動にはすべて理由がある

私たちの言う「パートナー」は「ファン」とは違います。

パートナーがそのブランドを熱狂的に愛しているケースも中にはあるかもしれませんが、必ずしも熱狂的だったり愛していたりする必要はありません。そして、ファンが何かを好きになるのに理由はないのに対して、パートナーの行動にはすべて理由があります。たとえば、私たちが運営するプラットフォーム「buzzLife」上で活動するパートナーの方々は、商品やブランドに対して愛情を抱いているから、活動してくれているわけではありません。ある人は、タダで商品サンプルがもらえることにメリットを感じて。ある人は、マーケティングプロジェクトに参加することで得られる、充実感や承認欲求の満足を求めて。またある人は、商品開発に自分の意見が反映されることにより、欲しい商品が世に出ることに魅力を感じて--。

このように理由は人それぞれですが、ファンと比べれば功利的、ビジネスライクな関係にあるのがパートナーです。私たちはそれを指して「win-winの関係」「co-creation(共創)」と呼んでいます。こういう人はファンとは違い、たとえ自分には合わない商品だったとしても、「あの人にだったら合うかもしれない」といった理由で、その商品を人に勧めてくれます。それによって自分の承認欲求が満たされたり、何か見返りが得られたりすると思えば、そういう行動をとるのがパートナー。その結果、無償でも口コミが広がっていくのが、我々の言う「PRM」の仕組みです。

        イーライフが運営するプラットフォーム「buzzLife」の仕組み

違いを認識し、目的に合った手法選びを

ファンマーケティングの成功例として挙げられるナイキは、黒人差別や女性蔑視などのセンシティブな話題に関して、かなりはっきりとしたかたちで自分たちのスタンスを表明していることで知られています。これまでナイキの商品を好んで購入してきた消費者の中には、当然ながら、ナイキが表明したスタンスと意見の合わない人も相当程度含まれています。企業が政治的スタンスを表明することには、そうした消費者が反感を覚え、離れていってしまうリスクがあるわけです。実際にナイキの周りでも、そうした現象は起きているようです。しかし、ナイキはそれでも構わないという姿勢を取っています。彼らはあらかじめそのリスクを承知した上で、あえて政治的スタンスを表明しているのです。なぜでしょうか?

私が思うに、彼らはそうすることで、ナイキというブランドの”人格”を、より鮮明にかたちづくろうとしているのです。そうして、自分たちの打ち出す世界観に本当に共感するファンとだけ、関係性を深めることを優先しているのでしょう。強烈な”破壊力”を持ったファンマーケティングは、その結果として成り立っているもの。つまり、企業に相当な覚悟を求めるものだということです。

くれぐれもお伝えしておくと、私はPRMの仕組みがファンマーケティングと比べて優れていると言いたいわけではありません。重要なのは、ファンとパートナーの違いを正しく認識し、自分たちの目的に合った手法を選ぶこと。そして、繰り返しになりますが、真にファンマーケティングを貫くには、相当な覚悟が求められるということです。であれば、多くの日本のメーカーが現実的に成果を得るための手法として、PRMは十分に検討の余地があるのではないかということをお伝えしたいと思います。

 

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