消費者は企業にとってパートナーである – イーライフの基本概念:PRMとは?
私たちイーライフが大切にしている考え方を、企業の歩みと共にお届けしているマーケティングコラム。
前回の「イーライフの基本概念:CSAとは?」に続き、今回は弊社CMOの杉山 麻喜が「イーライフの基本概念:PRMとは?」と題して、創業時からの取組をご紹介しつつ、「パートナー」について深く掘り下げてまいります。
パートナーとは
前回ご紹介した「CSA」*1と並び、イーライフが大切にしている考え方のひとつに「パートナー」というものがあります。*1 CSAとはCreator、Supporter、Audienceの3者の頭文字をつなげた造語で、イーライフがコミュニティづくりを提案する際に基本とする考え方
「パートナー」とは、同じ目的の達成のために協働する間柄のこと。たとえば、共同で事業を運営する他の法人組織や、プロジェクト単位でお仕事を依頼するフリーランスの方々などは、私たちにとっての大切な「パートナー」です。けれどもここでお伝えしたいのは、そこからさらに一歩踏み込んだ内容のこと。すなわち、消費者もまた、企業にとっての「パートナー」であるということです。
ネスレ日本による「ネスカフェ アンバサダー」
私たちが「パートナー」という言葉に込めた思いや概念を説明する際に、例としていつも挙げさせていただくのが、創業当初からのビジネスパートナー・ネスレ日本さんによる「ネスカフェ アンバサダー」の取り組みです。「ネスカフェ アンバサダー」は、ネスレ日本が家庭用コーヒーマシン「ネスカフェバリスタ」をオフィスに普及するため、2012年から実施しているキャンペーンです。
オフィスの代表としてネスカフェ製品を購入、同僚に商品を紹介してくれる人を募集し、「ネスカフェ アンバサダー」に任命。アンバサダーは、一定の条件を満たすと「ネスカフェバリスタ」を無料でもらえる代わりに、「職場にバリスタを設置する」「定期的にアンケートに答える」「専用カートリッジを購入・交換する」といった役割を担う仕組みになっています。
実は、この「ネスカフェ アンバサダー」の元になったアイデアは、弊社が運営するクチコミプラットフォーム「buzzLife」から生まれたものなのです。
クチコミプラットフォーム「buzzLife」
「buzzLife」とは、簡単に言ってしまえば、弊社が運営する消費者モニターの仕組みのこと。ですが、通常の消費者モニターとは少々異なります。
もっとも大きく違うのは、送られてきた商品サンプルを友人に試してもらえるよう勧めることや、自分の感想や友人からの反応を詳細にレポートすることなど、そこに集う消費者には、なんらかの役割が課せられていることです。
イーライフでは、「buzzLife」上の一つひとつの案件を「プロジェクト」、消費者に課せられる役割を「ミッション」と呼んでいます。こうしたネーミングにも象徴されるように、「buzzLife」は、企業が消費者の方々に対して、ある種の「仕事」をしてもらえるようお願いする仕組みと言うこともできるでしょう。
しかし、「仕事」とは言ったものの、金銭的な報酬は一切発生しません。消費者の方々からすれば、商品サンプルをタダでもらえるというメリットはもちろんありますが、それは「buzzLife」以外の一般的な消費者モニターでも同じこと。そこになんらかの「仕事」が加わるぶん、面倒なことは間違いありません。
ですから私たちとしても、2006年にこの取り組みを始めた際には、「おそらくはそんなに人が集まることはないだろう」と懐疑的な見方をしていました。ところがいざ蓋を開けてみると、私たちの予想をはるかに超えて、多くの方々が集まってくれた。「ぜひやらせてほしい」と言って、協力してきてくれたのです。
なぜ人は「ミッション」に参加するのか
無償にも関わらず、なぜこれほど多くの方々が協力を買って出てくれるのでしょうか。その答えは、実験的に始めたこの取り組みを「buzzLife」として正式に仕組み化し、20年近く運営を続けてきたいまでも、はっきりとはわかっていません。
ただ、仮説としてなら、考えられることはあります。それは、こうした消費者の方々は、企業のプロジェクトの一翼を担い、たとえば社会をより良くすることに貢献していると実感することで、ある種の充足感を得ているのではないか、ということです。「マズローの欲求5段階説」でいうところの「社会的欲求」や「承認欲求」、「自己実現欲求」といった高次の欲求を満たしているのではないかというのが、私たちの立てた仮説です。
実際に、当初の「ネスカフェアンバサダー」に参加された方は、自分のオフィスにバリスタを設置するためには多くのミッションを無報酬でやっていかなくてはなりませんでした。まずは社長や上司にバリスタを設置する許可を取り、設置した後も、上司や同僚に使い方を教え、毎日のマシーンのメンテナンスをし、リフィルを購入し…と、たくさんのこなさなければいけない「仕事」がありました。
しかしその中で、参加者から出てきたのは「バリスタを設置したことで社長が朝早く来るようになり、自分たちとバリスタを囲んで話をしてくれるようになった!」「お客様に淹れたてのコーヒーを出したらいつもより話が盛り上がり、商談が成立した」「いままで話したことがなかった先輩に、コーヒーが美味しいと褒められ、そこから仲良くなれた」といった言葉。自分が勧めたバリスタのおかげで、会社に貢献できたり、上司や同僚とコミュニケーションができるようになったりと、皆が喜んでくれたことに満足をしている声がたくさん聞こえてきました。これが私たちの言う、「社会的欲求、承認欲求、自己実現欲求とつながっている」ということです。
もしもこの仮説が正しいとするのなら、自社や自社商品に対する消費者のリアルな反応を知ることができる企業側と、精神的な充足感が得られる消費者側とは、win-winの関係にあると言っていいのではないでしょうか。つまり、企業と消費者は、協働でひとつのマーケティングプロジェクトに取り組む「パートナー」と呼べる関係にあるわけです。
「buzzLife」においては、企業が消費者からのレポートを受け取るだけでなく、そのレポートからどのような新たな視点が得られたのか、今後の企業活動にどのように活かせるかなど、企業から消費者へのフィードバックも必ず行うことにしています。「buzzLife」のこうした部分は、「企業と消費者は対等なパートナーである」という私たちのスタンスを端的に示していると言えるかもしれません。
さて、ネスレ日本さんの「ネスカフェ アンバサダー」の取り組みが、当初この「buzzLife」上で実験的に始まったものであることはすでにお伝えしました。「専用カートリッジの購入・交換」などの「仕事」をお客様にやらせることは、お客様を「神様」と見なすそれまでの日本のビジネス常識に照らせば、考えられないことだったと思います。
しかし現実には、こうした「ミッション」に喜んで取り組んでくださる消費者の方が、ありがたいことに、本当にたくさん存在するのです。こうしたことを見るにつけ、お客様は「神様」というよりは、同じ目的の達成のために協働する「パートナー」なのではないかと、私たちは思うのです。
「CRM」から「PRM」へ
マーケティングの世界に古くからある考え方に、CRM(カスタマー・リレーションシップ・マネジメント)というものがあります。そこでは「企業の売上の8割を生んでいるのは、上位2割の顧客である」とされ(パレートの法則)、こうした「ロイヤルカスタマー」との結びつきを強めることが重視されます。ネスレ日本さんも、当初はこうしたCRMの考え方に基づいた施策を行っていました。わかりやすく表現するなら、1日5杯のネスカフェコーヒーを飲んでくれていた「ロイヤルカスタマー」に、いかに「6杯目」を飲んでもらうかを追求していたのです。
しかし、私たちにはそれは難しいことのように映りました。1日5杯もコーヒーを飲んでくれるその人が「ロイヤルカスタマー」であることは疑いありませんが、いくら働きかけたところで、さすがに6杯目までは飲んでくれないように思えました。
どんなにその商品のことが好きだったとしても、経済的な事情だったり胃袋の容量だったり、さまざまな理由で「これ以上は買えない」ということはあるでしょう。コーヒーに関して言うなら、「1日6杯も飲んだら、さすがにカフェインの取りすぎだ」と考えるかもしれません。
私たちイーライフは、こうしたCRMに代わるものとして、PRM(パートナー・リレーションシップ・マネジメント)という考え方を提唱しています。CRMでは、「ロイヤルカスタマー」の基準を商品の購入量に求めますが、PRMでは「協働量」、すなわち、企業とどれくらい協働してくれるかを基準とします。
つまり、企業と積極的に協働してくれる「パートナー」を見つけ、その人たちとの関係性をより深いものにすることができれば、結果として売上も向上するのではないか、という考え方です。コーヒーをすでに5杯飲んでいる人に、6杯目を飲むよう促すのはさすがに難しい。けれども、その人が自分の大好きなコーヒーを2、3人の友達に勧めるシーンであれば、十分に想像ができるだろう、というわけです。
のちに「ネスカフェ アンバサダー」として広く知られることになるアイデアは、このような考えに基づいて生まれたものでした。
企業が「パートナー」を見つけるには
以上が、私たちが「消費者は企業にとってパートナーである」という言葉で表現していることと、その裏側にある価値観や考え方の説明になります。
「パートナー」と前回説明した「CSA」、あるいは「コミュニティ」という概念とは、非常に近しい関係にあります。コミュニティ内で自ら進んでコンテンツを作るクリエーターや、クリエーターの活動を支援するサポーターは、見方によっては、企業と協働してひとつのプロジェクトに取り組む「パートナー」と捉えることもできるでしょう。
ちなみに、世の中では近年、「その企業の商品なりブランドなりのことが好きで好きでたまらないファンとの関係性が、企業にとって非常に重要である」ということが盛んに言われていますが、私たちはあえて「ファン」という言葉を使っていません。「ファン」と「パートナー」は似て非なるものだと思っています。
私たちが「パートナー」と呼んでいるのは、あくまで企業とプロジェクトを共にすることに興味のある人たちのことです。もちろん、「そのブランドのことが好きで好きでたまらない人」が、結果として「パートナー」になってくれることはあるでしょうが、必ずそうでなければいけないわけではありません。同様に、CRMにおける「ロイヤルカスタマー」や、SNSにおける「インフルエンサー」なども、一部「パートナー」と重なる部分はあれど、完全に同じ概念とは言えないと考えています。
こうした活動をしていると、よく「企業はどうやってパートナーとなる人を見つければいいのか」と聞かれます。ノウハウとして一般化するのは非常に難しいですが、人の人格は常に一定とは限りませんから、ある場所では「パートナー」的に振る舞っていた人が、別の場所では「ファン」、あるいは「インフルエンサー」的に振る舞うことは、十分にあり得ると思います。
現実的な見つけやすさなども考慮すると、最初はやはり「ファン」や「ロイヤルカスタマー」のような人、あるいは単に「タダで商品サンプルがもらえてお得だ」という動機で「buzzLife」のような場所に集まった人の中から、見つけることになるだろうと思います。その中に一定数含まれる、企業との協働に積極的な人たちと、いかに継続的な関係性を築けるかが重要だと、私たちは考えています。