企業コミュニティのカギはサポーターが握る – イーライフの基本概念:CSAとは?
これまで、イーライフがサポートしているクライアントの事例がメディアに取り上げられる事はありましたが、私たちイーライフが自ら、企業の歩みや大切にしている考え方をお届けする機会は、ほとんどありませんでした。
そこでイーライフを少しでも理解いただくために弊社代表取締役CEOの藤原 誠一郎が「イーライフの基本概念:CSAとは?」と題して、事業の基本となる考え方をお届けします。
企業コミュニティのカギはサポーターが握る
イーライフは今年、創業22年目を迎えるマーケティング支援の会社です。最近はクライアント企業からの依頼を受けて、企業ブランドのオンラインコミュニティづくりをお手伝いさせていただく機会が増えています。
私がオンラインコミュニティと呼んでいるのは、趣味や関心の近いファンが集う場所のこと。企業がみずからコミュニティを運営し、そこでファンと継続的に、インタラクティブなコミュニケーションを取ることにより、自社や自社商品に対する関心を高め、その輪を広げるのが狙いです。一般にはファンマーケティングなどと呼ばれることもあります。
さて今回は、私がこうしたオンラインコミュニティづくりをする際に、ベースに置いている考え方「CSAモデル」についてご紹介したいと思います。
CSAモデルでは、コミュニティを
(1)コンテンツを作り出すクリエーター
(2)周辺からクリエーターを応援するサポーター
(3)それを外から見て楽しむオーディエンス
の3者から成る3層構造で考えます。「CSA」とは、Creator、Supporter、Audienceの3者の頭文字をつなげた造語です。
意外に思われるかもしれませんが、コミュニティが自走式に拡大していくためには、ゼロからコンテンツを生み出すクリエーター以上に、クリエーターの活動を周辺から支援するサポーターの存在がカギを握ると、私は考えています。
なぜそう考えられるのか、順を追って説明していきましょう。
無観客のスポーツイベントで起こっていること
CSAの考え方は、スポーツイベントを見るとわかりやすいと思います。スポーツにおいては、クリエーター=プレーヤー、サポーター=スタジアムで観戦する観客、オーディエンス=テレビで観戦する人、にそれぞれあたります。
しかし、新型コロナウイルス感染症の影響により、最近のスポーツイベントでは、この構造が崩れています。たとえば、ことし前半までのヨーロッパサッカーは、無観客で開催されていました。興味深いのは、毎年決まって好成績を収めるビッグクラブが、例年のような強さを発揮できず、順位表の並びが大きく変わったことです。
たとえば、イングランド・リバプールを本拠地とするリバプールFCは、2018-19シーズンの欧州チャンピオンであり、19年末に行われたFIFAクラブワールドカップで世界一にも輝いた強豪クラブ。しかし、20-21シーズンはまるで別チームのような脆さを見せ、無冠に終わってしまいました。
サッカーに詳しくない人はいまいちピンとこないかもしれないですが、圧倒的な戦力を誇るヨーロッパのビッグクラブがここまで崩れるのは、本当に異常事態と言っていい。私はこれを、サポーター=スタジアムで観戦する観客の不在が引き起こした現象と考えています。
サッカーのリーグ戦は通常、2チームがそれぞれのホームタウンで1度ずつ、計2回対戦するホーム・アンド・アウェー形式でおこなわれます。ホームチームの成績のほうが圧倒的に良いというのは、サッカーを好きな人間からすれば常識です。
でも、同じプレーヤーが同じルールの下にプレーしているのだから、普通に考えれば、ホームチーム有利というのはおかしな話ですよね。このことからも、大観衆の存在が、ホームチームのプレーヤーのパフォーマンスを後押ししているのは明らかなように思います。
つまり、なにかを生み出しているのは決してプレーヤー=クリエーターだけでないということです。むしろ、クリエーターとサポーターの共同作業であると言ってもいいのではないかと。
そのことは、ここ日本からオーディエンスとしてテレビ越しに観戦していても伝わってきます。サポーターのいない試合は、まるで練習風景を見させられているよう。退屈で、途中で眠くなってしまいます。
クリエーターは増やしたくても増やせない
話を企業のオンラインコミュニティに戻しましょう。
企業としては、オウンドメディアに投稿されたコンテンツをたくさんの人に見てもらい、それによって自社のブランドや商品に対するマインドシェアを上げてもらいたい。そのように考えて、コミュニティを立ち上げるわけです。
ここが大きな誤解だと思うのですが、多くの企業は、コミュニティのカギを握るのはクリエーターだと考える。どれだけ多くの人がクリエーターとなり、コンテンツを作ってくれたかをKPIに置き、その値をできるだけ上げようと働きかけます。
つまり、コミュニティを「コンテンツを作る人」と「それを見る人」という二分法で捉えて、コンテンツを作るクリエーターをとにかく増やせば、それを見る人も増え、コミュニティが広がるだろうと考えるのです。
しかし、クリエーターの数を増やそうとする行為は、先ほどのサッカーの喩えで言えば、もともと11人だったプレーヤーを100人、1000人と増やそうとしているようなもの。ナンセンスと言っていいですよね。
魅力的なコンテンツを投稿するのには、相当な労力を要します。どれだけ働きかけようとも、普通の人は面倒くさくてやりたがりません。私の考えでは、コンテンツを作るクリエーターの数自体は、一つのコミュニティに数十人もいればいいんです(もちろん想定するコミュニティの規模にもよるでしょうが)。
冒頭でも触れたように、実際のコミュニティはクリエーターとオーディエンスの2層構造ではなく、そこにサポーターを挟んだ3層構造になっています。クリエーターそのものではなく、その周辺にいるサポーターをどれだけ増やせるかが大事なのです。サポーターが増え、クリエーターを後押しすれば、コミュニティにはよいコンテンツが増えていきます。すると、良質なコンテンツを求めて集まるオーディエンスを増やすことにも、やがてつながっていきます。
再びサッカーの例えに戻るなら、プレーするのはいつも11人です。ですが、スタジアムが満席になり、サポーターの一人一人がものすごく熱狂していれば、その圧力がプレーヤーの神がかり的なプレーを引き出し、それを見たオーディエンスも熱狂し、輪が一層広がっていく。そういう3層構造を実現できたとき、企業コミュニティは自走し、雪だるま式に大きく成長していくものになると考えています。
クリエーターを増やすこと=投稿数を増やすことをKPIに置くと、「1回投稿するたびにポイントをあげましょう」といった、表面的な施策を打つことにもなります。そうすると、ポイント目当てのつまらない投稿が増え、コンテンツの質が下がってしまいます。
コンテンツの質が下がれば、誰もそのメディアを訪れてはくれないでしょう。むしろオーディエンスが去ってしまう結果になるのです。
コミュニティづくりはイーライフの「原点」
実は、イーライフは20年前に創業した当初からコミュニティづくりに取り組んできました。コミュニティづくりは、イーライフの原点と言っていいかもしれません。
私たちがイーライフを創業した1999年当時は、まだインターネット黎明期。私が注目したのは、個人で趣味のホームページを持っている人たちでした。彼らの自作サイトは「ホームページビルダー」などを使って作ったもので、いまから見れば相当シンプルなもの。ですが、彼らはそれぞれにテーマを持って、素晴らしいコンテンツを発信していました。
たとえば「資格王」を名乗る人は、自分の取得してきた100近い資格の内容や資格の取り方などを紹介するページを運営していました。あるいは、東北の保育士は育児に関する情報を、園芸に詳しい人は園芸に関するマニアックな情報をというように、それぞれが自分の得意なジャンルで力を発揮していました。
そして、それぞれにどうやらファンが付いていて、毎日のようにページを訪れている。私はそういうサイトの運営者たち(私たちは彼らを「巨匠」と呼んでいました)に対して、いまで言うコミュニティを作りましょうよと働きかけたのです。
コミュニティですから、それまで通りにサイトを通じたコンテンツ発信も当然しますが、あわせて掲示板のようなものを設けることで、ファンとの交流もできるようにする。これが私からの提案でした。北海道から九州まで、日本中をめぐって一人一人説得し、巨匠のサイト、コミュニティの集まりをelife.co.jpというドメインで作りました。そういうところから始まったのが、このイーライフという会社なんです。
面白かったのは、実際にできたコミュニティでおこなわれていたのは、巨匠からの一方的な発信ではなかったこと。ファンの側が掲示板を通じて「もうちょっとこういうコンテンツもお願いします」と巨匠に働きかけたり、場合によっては「自分でもこういうことをやってみました」みたいな発信もおこなわれていました。
ファンというのは、いまの呼び方に直せばサポーターにあたるわけですが、サポーター側の活動が巨匠の活動をグレードアップしたり、やりとり自体が面白いコンテンツになったりということが、当時から起こっていたということです。
ですから私としても、「自走式のコミュニティを作る上ではサポーターこそが重要である」というのは当時から意識していたこと。「人そのものがコンテンツであり、メディアである」という考えも、その頃から一貫して持ち続けています。
ちなみに、私たちは当初、これを広告モデルでビジネスにしようと考えていたのですが、その後ネットバブルが崩壊し、広告単価が暴落したため、ビジネスモデルの転換を迫られることになりました。いまから振り返っても、やっていること自体は正しかったかなと思います。やり方やタイミングはちょっとまずかったかもしれないですが……。
ともあれ、私たちの出発点はそういうところにありました。それを企業のマーケティング活動に積極的に生かしていくというのが、現在取り組んでいることで、CSAの基礎となっています。
<文中掲載図の事例>
エンゼルPLUS(森永製菓株式会社)
みんなとカゴメでつくるコミュニティ & KAGOME(カゴメ株式会社)
IDEA PARK(株式会社良品計画)
Oishiine!!(おいしいね!!)(マルハニチロ株式会社)
JALの旅コミュニティ trico(トリコ)(日本航空株式会社)
キユーピーコミュニティ おはなしダイニング(LA ViDA)(キユーピー株式会社)