米国進出における法務観点の留意点

ECコラム

訴訟リスク

こんにちは。コンサルタントの坂元です。
米国は「訴訟大国」とも呼ばれる市場であり、米国進出をする際は、どのような形態を採択してもリスクの最小 限化を検討しなければなりません。米国が訴訟大国である所以は、「訴訟を起こしやすい」、 「損害賠償などの訴訟コストが莫大である」ことが挙げられます。中でも、消費者によるクラス アクション(集団訴訟)は、米国にて商品販売する企業にとってもっとも大きなリスクです。

米国法人を設立するPROS/CONS

PROS:日本本社の賠償金額の限度

訴訟リスク回避を目的として、米国子会社を設立してから現地サイト型を目指すを企業は多く、訴訟大国の米国において、この選択は、ある意味正しい方法といえます。米国に子会社の設立することは、親会社から独立した法人格を米国にて取得することになります。これは、米国子会社が親会社とは別個の法的主体となり、米国ビジネスから生じる責任は原則として米国子会社が負い、日本の親会社は、出資の限度のみ責任を負うことになります(これを「有限責任制」といいます)。このように、米国のECから生じるリスクを日本の親会社に波及させない ことが、米国に子会社設立をする目的です。

CONS:ルールの厳化

米国にて現地法人を設立することは、遵守が求められる規制やルールの対象が増えるこ とを意味します。例えば、ECでの決済はクレジットカードで行われることが一般的ですが、米国にはカード情報を保護する規定として、PCI スタンダードと呼ばれる業界基準が存在します(「PCI DSS8」とも言います)。
PCI DSSとは、カード業界の大手企業によって設立された PCI セキュリティ基準理事会が作成した自主規制ルールです。PCI DSSでは、クレジットカードのデータを保管、処理、送信する際に、最低限のセキュリティ基準を満たすことを義務付けています。PCIは法律ではない のですが、米国内で拠点をもち、EC展開を行う現地サイト型では、PCIが設定するカード情報保護の規定に従わなければ、カード決済ができない仕組みとなっています。一方、米国拠点を持たない、また決済が日本で行われる越境サイト型は、このPCI 規定の対象にはならない可能性が高くなります。

日本企業が米国で訴えられるリスクを考える

米国の裁判所が審理の場となるには、人的管轄権と事物管轄権と呼ばれる両方の要件が成立しなければなりません。事物管轄権とは、裁判所が扱うことのできる紛争・法律関係、裁判所の権限を指します。日本企業が米国訴訟の当事者となるかについては、事物管轄権が問題となることは少なく、焦点はむしろ人的管轄権のある・なしで決まります。人的管轄権の問題とは、 米国の裁判所が日本企業を裁くのに適し、それが公正であるか、日本企業が米国で被告となるた めに必要な要件が存在しているかどうかに着目しています。日本企業の米国活動が限定されている場合、当該日本企業に米国裁判所の効力を及ぼすことは公正とはいえません。では、どれほどのビジネス頻度や米国市場との結びつき、米国ビジネス活動内容があれば、日本企業は米国裁判の当事者である、と公正な判断をされるのでしょうか?これはケースバイケースに判断されることが多く、また州によっても判断が異なってきます。

米国子会社等の拠点をもってECを展開したとしても、親会社である日本企業が米国で訴えられることは基本的にはありません 。しかし、親会社が子会社に対して過剰なコントロールを行使すると、子会社の法人格が否認され、子会社の責任を親会社が負うリスクがあります。子会社の法人格が単なるダミーであり形骸化している場合は、子会社による米国 EC活動がすべて親会社の活動とみなされ る可能性があるので注意しなければなりません。

また日本企業が、PR企業やエージェントを通して米国営業活動をしても、また日本企業の商品を米国で販売したとしても、その事実のみで人的管轄権が自動的に肯定されることはありません。 しかし、日本企業の米国へび営業活動や販売活動が積極的であり、これらの活動が組織的・継続的なものである場合には、管轄権があると判断される可能性が生じます。ECの場合、企業の英文サイトに米国消費者がアクセス可能ですが、そこで日本からの販売活動や取引があっても、販売規模が少ない初期段階では、人的管轄権が問題視されることはないでしょう。しかし、販売規模が大きくなってくると状況は変わり、日本企業が積極的かつ、自発的に米国市場に参加しているとみなされる可能性がでてきます。

管轄権・準拠法

米国での管轄権を回避する一つの方法として、消費者との取引において準拠法を日本法、そして管轄権を日本の裁判所に設定する方法が挙げられます。ECにおける消費者との契約「Terms of Use」の中で管轄権に関する当事者の合意がある場合、米国法においてはこの合意が尊重されることになります。

日本企業と米国消費者との間で問題が起きた場合、日本法そして日本の裁判所で紛争を解決する合意があれば、これを根拠に管轄権の欠如を主張することができます。しかし、このような当事者間の合意があれば管轄権を必ず避けることができるというわけではありません。米国、あるいは各州には、自国に住む国民を保護する義務・関心があります。日本企業のビジネス活動によって米国消費者に損害が生じた場合、たとえ上記のような専属的合意があったとしても、裁判所はそれを否定し消費者を保護するために効力を及ぼすことがあります。

分かりやすい例が、PL(製造物責任)をめぐる紛争です。米国でのEC展開には、企業による米国市場の開拓・販売促進という明確な意図が存在します。この場合、欠陥商品を流通し、その結果米国消費者に被害が出た場合、いかなる専属合意があろうと日本企業に対する管轄権が肯定される可能性は高く なります。このように、ECなどインターネットでのビジネス活動は、日本企業の人的管轄権がより肯定される可能性を高めている点を留意しなければなりません。完璧な防御策にはならないにしても、Terms of Useなどを通して、日本企業が米国訴訟に巻き込まれないよう対策を講じておくことが重要になると思います。

Fair Trade Commission

【OECDガイドライン】

まず重要となるのが、「そのビジネスの基本的ルールを設定しているのが誰なのか」を理解することです。米国において ECビジネスを統治するのが、連邦取引委員会(Fair Trade Commission、以下「FTC」) と呼ばれる機関です。FTCは、企業の不公正または虚偽的な商行為を規制し、そのようなビジネスから消費者を守る権限を有しています。

FTCによる「公正な EC」の定義を知るには、2016 年の 4 月に FTC が承認した経済協力開発機構(OECD)のガイドラインが参考になります。これらは、法律ではなくあくまでガイドラインですが、ここから逸脱した商行為は、FTCにより不公正とみなされる可能性があるので注意しなければなりません。OECD のガイドラインから FTC が特に重視するのは以下に示すポイントです。

  • E-コマースにおいて留意すべき法律のポイント
    1. 開示義務:消費者が、商品を購入する上で、知らせるべき情報を開示する。
    2. マーケティング規制:企業の不公正または虚偽的なマーケティング、プロモーション、広告やセールスを禁止する。
    3. データ保護の義務:消費者の個人情報を守り、個人情報が漏洩しないシステ ム設定を義務付ける。
  • 開示義務
    開示義務とデータ保護を遵守するため、企業は、Terms & Use と Privacy Policy と呼ばれる サイト内ポリシーの策定を行う必要があります。Terms of Use は、ECサイトの利用規定であり、この規定に基づいて消費者との取引が行われることになります。Terms of Use は、 ある意味で消費者との間で交わされる契約書ですが、FTCは消費者と企業間の契約については、交渉力が不均等であると考えています。したがって企業は、消費者が不利にならないよう取引に置いて重要な情報は開示し、消費者が安心して商品購入できる環境づくりを示していかなければなりません。
  • マーケティング規制
    FTCは、重要な事実を省略すること、虚偽または誇大な広告を禁止してい ます。実際の虚偽や消費者への損害がなくても、消費者の誤認を生じさてしまうと、 企業のマーケティングは欺瞞的な取引慣行を行ったとみなされることになります。FTCのマーケティング規定に反した場合、広告内容の修正だけではなく、消費者の損害を補償する、あるいは民事制裁金と呼ばれる罰金を課せられることもあるので注意してください。FTCはインターネット上の広告に関し、「Dot Com Dislcosures: Information about Online Advertising(ドットコム開示:オンライン広告に関する情報)」や、「Advertising and Marketing on the Internet: Rules of the Road(インターネットにおける広告およびマーケティ ング:その規則)」を発表しています。米国 ECを展開する上では、これらのガイドラインを事前に確認することが重要です。
  • E-コマース展開で確認するマーケティング規制の紹介
    1. 価格設定 :消費者を騙す、あるいは誤解させるような価格表示をしない。
    2. 比較広告:自社もしくは競合相手の特質、特徴や品質を欺き、不正確に 伝える行為は禁止。
    3. 子供を対象とする広告:商品やその性質について、子供に不正確な、あるいは誤解を 生じさせる情報を伝達してはならない。
    4. プロモーション:富くじ(ロッテリー)、クローズド懸賞は禁止。懸賞には、 連邦そして州法に定められた表示や手続きの規定が存在する。
    5. 証言広告(Advertising Using Testimonials):広告主と証言者との間に「重大な関係」がある場合は、その関係を明白に開示する。
    6. ユーザーコンテンツ:ユーザーコンテンツが、第三者の知的財産権や名誉等の権利を 侵害しないようモニタリングする義務。オプトアウト通知義務。
    7. 電子メールマーケティング : CAN-SPAM 法により、無差別な迷惑メールや商用電子メールの利用は禁止されている。
  • データ保護の義務
    Privacy Policy では、サイトにおける個人情報の取り扱いを明確に消費者に説明していきます。サイトに書かれる個人情報の説明は、企業が守らなくてはならない消費者との 約束事です。例えば、「第三者に個人情報を共有しない」とポリシーに書かれている場合、これに反して個人情報を共有してしまうと、情報漏洩したものと判断される可能性があるので、注意が必要です。

【州が定める消費者保護法に遵守する】

各州には、FTC 規定を基本とする消費者保護の法律が制定されています。州の消費者保護法は、FTC 規定をより強化するかたちになっていることが多いので、販売する商品やマーケティ ングの内容によっては、FTC 規定より州法の規定を重視しなければならない場合があります。

このように、さまざまな州で取引がされる場合は、自社のビジネスや商品が、州の定める消費 者保護法の規定対象となるかどうかについて、事前に確認しなければなりません。50 州の法律をすべて確認するというのは困難なプロセスに感じますが、ここでは、この作業を簡単にする方法をいくつか紹介します。

  1. 類似するビジネスを展開する企業のサイトを参考にする。
  2. カリフォルニア州など、一番厳しい消費者保護法が制定される州の規定を参考 にする。
  3. 多くの取引が見込める、また営業活動の中心となる州を2,3選択し、それらの州の規定を参考にする。

【その他重要な法律】

  1. サイトにおいて、商品の価格に州の消費税(Sales Tax)は含むべきか?
    会計・税務に詳しい専門家に相談を推奨します。 ビジネスを行う州に拠点を持つ企業は、Sales Taxの回収義務が発生する可能性があります。しかし、「拠点ある・なし」の判断(「Nexus」と呼ばれています)は州によって異なるので注意が必要です。
  2. 販売商品によって、税務規定が異なることもあるか?
    会計・税務に詳しい専門家に相談を推奨します。 例えば、ニューヨーク市では、110 米ドル以下の衣類についてはSales Taxは課されません。
  3. 販売する商品によっては、ライセンスを取得しなければ、取り扱ってはいけない商品もあるか?
    アルコール販売などにおいては、米国でのビジネスを行う前に、国や州から発行されるライセンス(許認可)を取得する必要があります。
  4. シッピングが許可されていない商品はあるのか?
    エアロゾル商品、アルコール、たばこ、動物、ドライアイス、フルーツ、野菜、香水などは、シッピング会社の特別な規定(追加費用や書類審査)が設定されている可能性があります。

【知的財産・商標権】

米国でビジネスを展開する際、日本企業は、第三者の知的財産権を侵害しないように注意しなければなりません。知的財産権とは、個人や企業の創作活動によって生み出される無形の財産であり、特許権、商標権、著作権の法令によって定められた権利となります。知的財産権の中でも、 特に企業や商品のブランド力として重要になるのが商標権です。
米国の商標権は、日本の「登録主義(登録することにより権利が発生する)」とは異なり、一番初めにその商標を商業使用した人が獲得する権利です。従って、実際に商標を米国で使用しているのであれば、商標登録を受けていなくてもその商標の権利は保護されています。

【Terms of Use / Privacy Policy】

  • 利用規約の拘束力
    Terms of Use を企業をツールとして活用するためには、契約として拘束力のあるものでなければなりません。法的に拘束力のある契約書には、当事者間で契約することに対する意思の一致が必要です。米国においては、サイト上のリンクとして Terms of Use を掲載するだけでは、消費者が Terms of Use の内容に合意し契約する意思があった、とはみなされない可能性があります。合意の確認をとるため、サイト上に合意を示すチェックボックスを用意し、消費者にチェックさせるなど、意思の一致を見えるかたちで残せるようにしましょう。
  • Privacy Policy
    個人情報を取得する場合、 Privacy Policy の中では、「どのような個人情報を取得するか」「個人情報をどのように利用するか」「個人情報を第三者と共有するか」などを明確に、そして正確に消費者に伝えていかなければなりません。決済システムなど提携先と情報を共有する場合は、必 ずその旨を消費者に通知しておくことが大切です
    米国には、消費者の行動パターンをトラッキングすることに対するガイドラインも存在 します。これは法律ではなく、あくまでDigital Advertising Allianceという自主規制団体が策定するガイドラインとなります。ガイドラインでは、サイト内でのトラッキング方法について消費者に開示し、そしてオプトアウトできるようにすることを薦めています。

【その他、知っておくべき法律】

  • データ保護
    連邦取引委員会(Federal Trade Comission)が公正な取引を監督・監視する機関だが、各州においても規制が異なる場合もあるため、留意する必要性がある。特に、カリフォルニア州は他州と比較して、プライバシー・データ保護に関して独自の規制を設けています。
  • カリフォルニア州における関連規制
    ・”Shine the Light Law”CA Civil Code 1798.83
    ・California Civil Code Section 1798.82
    ・The California Online Privacy Protection Act (CalOPPA)
  • 消費者保護法
    ・Consumer Product Safety Act (CPSA)(消費者製品安全法)
    ・Consumer Product Safety Improvement Act of 2008 (消費者製品安全性改善法)
    ・Consumer Credit Protection Act 1968 (CCPA) (消費者信用保護法)
  • 個人情報保護法
    ・Privacy Act of 1974 (個人情報保護法)
    ・Fair Credit Reporting Act (FCRA)(公正信用報告法)
    ・Children’s Online Privacy Protection Act (COPPA, COPA)(児童オンラインプライバシー保護法)
  • 規制取扱商品
    US Customs and Border Protection “Prohibited and Restricted Items”
  • Uniform Electronic Transaction Act:電子署名法
    ・日本にサーバーと発送拠点がある場合、日本からの輸出者は米国での法人登録や許認可取得などの義務はありません。
    ・国際取引上の観点から、経済協力開発機構(OECD)の電子取引に関するガイドラインに従う必要性があります。例えば、インターネット販売業者は公正な広告を行い、ウェブサイト上で事業者自身の業種や所在地、商品とその価格、保証、返品やクレームの方法、取引保護上の措置などを明示するなどが求められます。
    ・発送に関しても配達所要日数、配達遅延時の通知、払い戻しなどに関する規制が生じます。配達所要日数を記載する場合、その根拠が必要となり、配達日数を記載しない場合は30日以内に配達できる合理的な根拠を持っている必要があるという「30 day rule」があります。
    ・米国内にサーバーと商品発送拠点を設置した販売においては、消費者保護や公正取引などの観点から連邦取引委員会が定めるガイダンス「Online Advertising and Marketing」に留意することが必要です。インターネット広告の留意点、出荷前に知らせる事項、開示すべき情報、サーバーのセキュリティーなどに関する内容が記載されています。

【小口配送】

  • 米国では2,500ドル未満の小口貨物は略式輸入(informal entry)として扱われ、通常の貨物よりも簡易な通関手続きが適用されます。ただし、繊維製品、その他の制限品目などは略式輸入の対象外となります。
  • 2,500ドル未満の小口貨物を米国へ輸入する際には、「フォーム3461(Entry/Immediate Delivery for ACE)」を輸入者もしくは通関業者が米国税関国境警備局(Customs and Border Protection: CBP)に提出します。
    略式輸入の手続きの詳細情報:連邦規則集19CFR、Part 128.24 (Informal Entry Procedures)

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