日本企業の活路はグローバルニッチにあると言える理由
本日の語り手
代表取締役CEO 藤原 誠一郎 金融商品のマーケティング、ベンチャーキャピタル設立を経て、1999年イーライフを設立。 趣味はマリンスポーツ・スノースポーツ。愛犬家。 |
こんにちは、イーライフ代表取締役CEOの藤原です。
今回も、この厳しい景気動向下で日本企業が見出し得る活路について、僕なりの考えを述べたいと思います。テーマは「グローバルニッチ」です。
グローバルニッチとは、世界市場においてニッチ、つまり市場規模が小さく、それゆえに参入企業も少ないと見做されている市場分野のこと。このグローバルニッチの可能性がいま、ものすごく広がっているように思うのです。
BtoCに広がるグローバルニッチの可能性
日本にも古くからグローバルニッチと呼ばれる企業はありました。
例としてすぐに思いつくのは、村田製作所。京都府長岡京市に本社を置くこの電子部品メーカーは、いまや世界的企業になっています。工具や部品などを扱う製造業には、ほかにも世界的な企業が多いです。
ただ、これまでの日本発のグローバルニッチ企業は、BtoBが中心でした。それがここへ来て、BtoCにも可能性が広がってきているように思うのです。
僕は1999年にこの会社を立ち上げるにあたり、さまざまなサイトやサービスをリサーチしました。その中で「これはすごい!」と驚かされたのが、「nishikigoi.com」という、錦鯉のオークションサイトです。
錦鯉は「泳ぐ宝石」などとも言われ、世界中にマニアがいます。そうしたマニアを相手にオンラインで売買するサイトが、20年以上前にすでにあったのです。まさに日本発のBtoCグローバルニッチサービスの先駆けと言えますが、その後は長らく、私のレーダーに引っかかるものが現れませんでした。
しかし、ここへ来て変化の兆しが窺えます。
例えば、フィギュア・カプセルトイメーカーの老舗である海洋堂の躍進は広く知られるところです。先鋭的な企画と、リアルさと躍動感あふれる独自の造形表現により生み出されるフィギュアには海外でも熱烈なファンやコレクターが存在し、高い評価を得ています。
また、厳密に言えばBtoBですが、化粧品ボトルなどの幅広い分野のプラスチックボトルとガラス瓶を扱う、竹本容器も注目の企業です。
企画、開発、製造、加工、販売までを一貫して行っているのが同社の特徴で、扱う商品はとにかく種類が豊富。デザインデジタルツールや3Dプリンターを使ったカスタマイズ(スピーディーなプロトタイプの製作)にも対応しています。
最近は個人で化粧品ブランドを立ち上げる人なども増えており、そうしたスモールビジネス向けの需要が伸びているようです。同社はヨーロッパ市場への進出を視野に入れていますが、僕はこれから伸びていく可能性が大きいと見ています。
「地域に合ったマーケティング」は過去のもの
BtoC分野のグローバルニッチに可能性が広がっているのはなぜでしょうか。その理由は大きく二つあると僕は考えています。
一つはソーシャルメディアの普及です。
マーケティングの世界ではこれまで「BtoCは、その地域に合ったマーケティングを行うことが必須」というのが常識でした。しかし、InstagramやTikTokなどのソーシャルメディア上では、地域の違いを超えて世界中の人が同時に、同じコンテンツを消費しています。
そのことが持つ意味を説明するために、2016年に弊社がパートナー企業である良品計画と開催した「MUJI PEN ART CONTEST」をご紹介したいと思います。
無印良品の水性ペンは、既成の価値を押し付けない「余白」のあるデザインや豊富なカラーバリエーションが人気で、イラストレーターらに愛用者の多い商品です。Instagramなどのソーシャルメディア上ではコンテスト開催以前から、無印良品のペンで描かれたたくさんのイラストや活用風景が投稿されていました。
そこで我々は、Instagramをプラットフォームとしてアートコンテストを開催することにしました。世界中に点在しているそうした体験価値をつなぎ、お客さま同士のコミュニケーションを活性化したり、隠れた才能を発掘したりしながら、無印良品のペンの新たな楽しさを伝えるのが目的です。
すでに無印良品のペンを使って描いた作品を投稿していた人に参加を呼びかけるなどしたところ、広告投資を一切しなかったにもかかわらず、世界90カ国から3000以上の作品が投稿され、1週間で10万人以上の閲覧がありました。
興味深かったのは、無印良品の実店舗のないアフリカの国の人などからも投稿があったことです。こうした人はおそらく、ソーシャルメディアなどを通じて情報を入手し、オンラインで無印良品のペンを購入していたのだと思います。
熱心なマニアの行動力には度々驚かされますが、彼ら彼女らのニーズは世界共通であるというのが重要なポイントです。ソーシャルメディアをうまく活用すれば、国境を超えてこうした世界中のマニアに訴求することができるようになっています。
eコマースプラットフォームによる革命
グローバルニッチビジネスの可能性が広がったもう一つの理由は、「Shopify」などのeコマースプラットフォームの台頭により、ロジスティクスを世界規模で、ボーダレスにできるようになってきたことです。
世界を相手にビジネスをしようと思ったら、以前であれば、在庫は日本に抱えて、それを国ごとに配送する必要がありました。先ほど挙げたnishikigoi.comなども、おそらくはそういうことをやっていたのだろうと思います。
けれども、いまはShopifyなどのプラットフォームを活用すれば、在庫は日本に限らず、世界のどこに置いてあってもいいわけです。もっとも効率よく、低コストで配送できるところから配送するという、昔でいうところの「三国間貿易」がどんな企業にも可能になっています。
弊社は昨年10月、Shopify導入を大企業向けに支援する「Shopify Plus パートナー」に認定されました。また、これまでの記事でも触れてきたように、ソーシャルメディアを活用したマーケティング支援にも実績があります。
この二つをうまく組み合わせることで、さまざまなクライアント企業と、BtoCニッチビジネスの世界展開にも取り組んでおり、問い合わせの数も増えてきています。
僕が思うに、日本人、あるいは日本企業はグローバルニッチとすごく相性が良いです。冒頭でも触れたように、デバイスや工具などではすでに実績があります。いまはソフトウエアやゲームの会社になっていますが、日本発で世界を制した企業・ソニーも、もともとはデバイスの会社です。
ですから、日本発でグローバルにニーズのあるものを発見し、それをShopifyのようなすでにあるインフラに載せ、マーケティングはInstagramやTikTokといったソーシャルメディアを通じて行う。国境を意識せずにやっていくことが、僕らのビジネスとしても有効だと思いますし、ひいては、日本が生きていく道と言えるのではないかと思うのです。